さて、数年越しになっているこのシリーズ、やっと最終回、完結編です。前回のお話をご覧になりたい方はこちら。
砂漠の博士課程の友人Bさん、二ヶ国語がしゃべれるCさんで真っ二つに割れた採用委員会。
採用委員会はあたしも含めて5名。
Bさん支持が二人、Cさん支持が二人、そしてどっちでもいいけどどっちか選べって言われたらCさんにするというのが一人。
BさんもCさんもティーチングは経験ありで学生からの評価も高いので問題なし。
パーソナリティー的には、BさんもCさんもそれなりに今のメンバーとうまくやれるだろう、ということで一応問題なし(砂漠のディレクターのコメントはみんな知らないことになっているのであっちへ置いとくとして)。
とすると、複数の出版論文があってスカラーシップのポテンシャルも高いBさんと、出版論文が一つもなくてリサーチ自体もできるんだかどうか怪しいというCさんとでは、当然Bさんの方に分があるはず。
なのにCさんが有利なのはナゼ(?_?)
ここからが採用側の人間にしかわからない、教員採用の裏側
Cさん支持を最初から決め込んでいてプレゼンテーションにも来なかった先生は、その先生自身がリサーチができないもしくはリサーチに興味がない人なんです。だから、他にもリサーチできない人が来ると安心なのでしょう。それに、ティーチングやリサーチの興味分野がBさんとはかち合っていて、Bさんの方がその分野に関しては最新の知識を持っているし、リサーチの実績もあるので、Bさんに来られたのでは自分の立場が危うくなる、と感じているように思われます。これはあくまでもあたしの推測ですが。
そして同じくCさん支持のディレクター。このディレクターはBさんの業績や将来性をちゃんと評価していて、Bさんは今後のうちのプログラムを活性化させてくれるだろうし、取り逃がすには惜しい人材だと思っていて、それに比べてCさんはリサーチできないし、アカデミアのことを何にも知らないし、というのは重々承知しているようなんですが、Cさんは博士課程時代に指導教官にちゃんと指導してもらわなかっただけで、ちゃんと指導すれば大丈夫と自分で自分に一生懸命言い聞かせているようでした(その3参照)。
でも、みんな死ぬほど忙しいのに、いったい誰がCさんのMentorになって一から色々教える時間があると?ディレクターさん、あんた面倒みるんかね?とあたしは思ったんですが、その時は口に出しませんでした。この時この一言を口に出さなかったのを後で物の見事に後悔することになるのですが、このときはまさかそんなことになろうとは思ってもみませんでした(←意味ありげに引っ張る人)。
Cさんが某言語が話せるマイノリティーだということが、ディレクターにはこの上なく魅力的な要素なようです。単刀直入に言えば、Cさんのマイノリティー・ステータスはうちのプログラムのマーケティングに「使える」んです トークン・マイノリティー、とはよくいったもんだ・・・
しかし、Bさんを支持するあたしともう一人の先生はCさんに対してもう一つ大きな問題点を感じていました。
その先生もあたしも所謂マイノリティーの身分なんですが、あたしが来るまではその先生が唯一のマイノリティーで、その先生は周囲の理解のなさと、目に見えない差別に長い間苦労してきたという人なんです。
その先生とあたしが一番恐れるのが、“白人かぶれ”したマイノリティーがやってくること。というと、身も蓋もない表現ですが、つまり、この白人社会でそこらじゅうに巧みに組み込まれている差別の構造や力関係の不均衡さちゃんと見抜ける目を持ってなくて、“大多数”の意見を鵜呑みにしてしまっているようなマイノリティーほど始末に終えないモノはないというのが、あたしたちの共通した意見なんです。
そういう、ちゃんとモノが見えていない“マイノリティー”が、大多数(白人)寄りの意見を言うと、それは白人の社会ではものすごいパワーを持つんです。「ほら、マイノリティーがそう言ってるんだから、自分たちは間違ってない」という風に使われちゃうんです。
なんか、うまく説明できなくてはがゆいですが、とにかく、あたしともう一人のマイノリティーの先生には、このCさんがそういうセンシティブな目を持っているようには見えなかったので、大反対だったんです。むしろ、白人のBさんのほうが、そういう目をしっかり持っていて、イザとなったら他の白人たちの前であたしたちマイノリティーのために闘ってくれそうだったんです。
しかし、ディレクターがこんなにCさんに一生懸命になってるんだから、Bさんはもうダメだな、と諦めていたところに一通のメールが採用委員会全員に届きました。
それはディレクターからのメールでした。
Good News!で始まるメールにはこんなことが書いてありました。
うちのプログラムの学生数対教員数を改めて計算したら、その割合が相当高く(=教員一人当たりの学生数が非常に多い)、それを理由に学部長にかけあって、新規採用ポジションを二つ確保したので、BさんもCさんも両方採用できるようになりました
と。
このメールを見て、喜ぶどころか、これまでの疲れがど〜〜〜〜っと出たのは言うまでもありません。
今までの、書類審査とか面接とか密偵とか論争とか、いったいナンだったんだああああっ
というわけで、大どんでん返しのオチがついて、この年の新規採用は幕を閉じました。
ちゃんちゃん
ところで、先ほどちょこっと書いた、後々後悔することになったことというのは、、、
オファーを受けて、晴れてうちのプログラムにやってきたCさんなんですが、予想したとおりアカデミアのことは全く何にもご存知ありませんでした。
それで、どうしたかというと、わからないことがある度に、ちょくちょくとあたしのオフィスを訪れるようになったとさ。
あたしは、CさんのMentorを買って出たわけでもないし、そのための時間を別にもらったわけでもないし、あたしだってまだ新人でわからないことあるんだし、自分のことで死ぬほど忙しいんだってば。なんでこーなるのっ!?
【大学教員へのイバラの道の最新記事】
>それに、ティーチングやリサーチの興味分野がCさんとはかち合っていて……
の下りは「Bさん」の誤りではないでしょうか。
書かれていない(隠されている)具体的な部分が気になるお話です。純粋に仕事の中身で評価するのでさえ、キャリアや業績だけでは通らなくて、コラボレートの可能性やプロジェクトの将来性などに左右されるので採用というのは難しいものなのでしょうね。ましてやそれ以前の政治的な思惑が絡むとなると……お察し致します。
ご指摘の通りCさんはBさんの誤りでした。早速本文の方を訂正しました。ありがとうございましたm(__)m
清水の舞台から飛び降りるつもりでかなりヤバいことまで書いてるんですが、それでもコレはいくらなんでもココには書けないという部分はありますから、難しいです。